AISASに代わる消費者行動理論はICSAS

AIDMAとAISAS

消費者行動理論を語る上で耳にタコができるくらい聞かされてきた“AIDMA”。今更かもしれないが、これは以下に示される“リアル世界で”の典型的な消費者行動である。

A
Attention(注意・注目)

I
Interest(興味・関心)

D
Desire(欲求・購買欲)

M
Memory(記憶・保留)

A
Action(行動・購入)

AIDMAの典型的な例として、私はうなぎ屋を思い出す。
夕飯の食材を買いにスーパーに向かう主婦が、うなぎ屋から漂ってくる美味しそうな臭い(Attention)に誘われ足を止める(Interest)。美味しそうなので、今晩はうなぎにしようかと考える(Desire)。しかし、うなぎは高いし、スーパーでもっと良い食材が手に入るかもしれないので、その場では買わない(Memory)。スーパーで買い物をしたが、やはりメインはうなぎだと思い、うなぎ屋に戻って購入する(Action)。
別にうなぎ屋でなくてもいいのだが、だいたいこんな感じだと思う。
リアル社会の消費者行動は、確かに、AIDMA(もしくはMを除いたAIDA)で説明できることが多い。そして、多くの広告戦略が、この理論をベースに展開されてきたことに、疑いの余地はないだろう。
しかし、Webの登場によって、状況は大きく変わった。すなわち、欲しいと思ったものをPCなどの情報端末から即座に購入できるため、DesireとMemoryのプロセスが不要になってしまったのだ。そのかわり、興味・関心を抱いたものを検索(Search)するプロセスと、購入した商品の情報を共有(Share)するプロセスが追加された。
これが、いわゆる“AISAS”である。

A
Attention(注意・注目)

I
Interest(興味・関心)

S
Search(検索)

A
Action(行動・購入)

S
Share(共有)

AISASは、広告会社の電通が提唱する理論で、同社の登録商標にもなっている。

AISASはマイナーな行動理論

Webサービスの普及によりドラスティックな変化を遂げた消費者の購買モデル。その革新的な進化を示す理論がAISASと言われているが、私はどうも釈然としない。どうしても、Attentionが見つからないからだ。
強いて言えば、YAHOO! JAPANmixiなどのメガサイトに掲出されるビッグバナー広告などがそれに当たるだろうか。しかし、これらはどちらかというとスルーされる対象であって、Web上で買い物をする場合の主要な導線とは言い難い。
ブログパーツなども、Attentionを喚起するのに有効だろう。しかし、これも脇役的な広告パターンだろう。
私たちがWeb上で買い物をするとき、どのように行動するか思い出せばわかりやすいと思う。まず、買いたいものや興味のあるものが頭に浮かび、それを検索するのではないだろうか? あるいは、Amazon楽天などに直接アクセスする。もし、不明な点や不安な点があれば、mixiOKWAVEで他のユーザーに聞いてみたり、2ちゃんねるの書き込みを調べたりするだろう。
どちらにしても、Webユーザーの行動はInterestからスタートすると考えて、まず間違いない。
ただし、例外がある。テレビや屋外広告、雑誌や新聞の広告など、マスなメディアで周知してからWebサイトに誘導するという、いわゆるクロスメディアだ。テレビCMなどで「続きはWebで」と言って、検索フォームに“○○”と入れるように指示するアレ。
しかし、これは厳密にWebの広告モデルとは言えないだろう。クロスメディアは、あくまでも主たるマスメディアに対する従のWebという考え方。しかも、これはマスメディアが多くの人に見られているということが前提なのである。テレビの視聴率がふるわず、雑誌・新聞の発行部数が減っている現状を考えれば、将来的に有望とは言えない。
このように考えると、Webにおいて、AISASは非常にマイナーな行動原理であることがわかる。

AISASの矛盾

AISASには、大きな欠陥がある。それは、最後のS、“Share”の部分だ。商品を購入し、そのレビューをネット上に残し、次に購買するカスタマーに助言とヒントを与える。AmazoniTMS楽天など、多くのB2Cサイトがこの機能を導入している。
しかし、AISASモデルには、このShareを受け入れるプロセスが存在しないのだ。注目して(Attention)、興味を持ち(Interest)、検索し(Search)、購入(Action)。そして、共有=口コミ情報を流す(Share)。購入の前に共有を受ける=口コミ情報を見る(Shared)は無くてよいのか?
AISASは、Shareの部分が途切れており、次の購買に繋がらない欠陥モデルと言わざるを得ない。

AISASの正体(推測)

少しうがった見方をしてみよう。そもそも、AISASを提唱したのは広告会社である。広告会社は、簡単に言ってしまえば、AIDMAモデルやAISASモデルで言うところの“AI”の部分で商売をしている。“AI”を作り込んで、最終的にActionにつなげるのが、彼らの仕事だ。そのためには、派手な広告を打って、消費者の興味・関心を集めようとする。
ところが、Webの消費者は、Action前の検討段階に必ず第三者意見(Shared)を聞こうとする。そして、その意見によって、最終的な購買を決断するのだ。
これは、広告会社にとって非常に都合の悪い話と言える。
Webでの購買行動がAttentionから始まることがごく稀で、しかも、Actionの前でSharedが商品購入を阻害してしまう。Webにおける広告会社の存在価値を揺るがしかねない話だ。
広告会社にとって、Attentionは必ず無くてはならないし、Sharedはあってはならないプロセスなのである。
これが、AISASという言葉が生まれた理由…いや、こんな言葉しか生まれなかった理由ではないだろうか。

AISASに代わる理論

Web上の消費者行動は、AttentionではなくInterestから始まる。この考えは、Webサービスが全般的に、ユーザー主導のPULL行動に基づいていることからも、かなり有力である。Interestは、一部Attentionからも生まれうるが、必然性(例えば、水道が壊れた、など)からも発生するし、多くは趣味や志向などから発生するだろう。
そして、Web上の消費者は、関心を持ったら、ブラウザを起ち上げキーワードで検索する。
では、Interestの次はSearchか?
私は、Searchだと少し狭すぎるような気がする。気になる情報について、キーワード検索する前にmixiOKWAVE2ちゃんねるなどで質問する人も少なくないからだ。「ググレカス」とか言われそうだけど。Amazon楽天でレビューを読んで参考にしたい人もいるだろうし、SNSの日記やメッセージ機能で情報を集める人も多いはずだ。
ここは、Contact(接触)という言葉でまとめるのが適切だと思う。
Contactは、あくまでも接触という一つのプロセスなので、この後には当然Shared(第三者意見)が来る。
そして、Sharedを聞いて始めてAction(購入)するか否かを決定するのである。
まとめると、以下のようになる。

I
Interest(興味・関心)

C
Contact(接触

S
Shared(共有情報を聞く)

A
Action(行動・購入)

S
Share(共有)

ICSAS
読み方は「イクサス」かな?
Webを使い倒している人たちには、あまりに意外性のないモデルかもしれないけど、わかっていない昔の人たちを説得するには使える言葉ではないかと思う。

実際の消費者行動と当てはめてみる

自宅で10年ほど使い倒した洗濯機が壊れたとしよう。必需品だけに、早急に買い替えなくてはならない。しかも、洗濯機なんて滅多に買い替えないものだから、これに関しては10年前の知識しか持ち合わせていない。最近の洗濯機はどんなのがあるんだろう? と思う(Interest)。
とりあえず、最初に何をするだろうか? 私なら最初にAmazon楽天あたりにアクセスし(Contact)、レビューに目を通しながら(Shared)商品を探すだろう。あるいは、掲示板やSNSのコミュニティに質問トピックを作り(Contact)助言を募る(Shared)のもいいかもしれない。キーワード検索し(Contact)、ブログなどから情報を得る(Shared)のも有効だろう。
そして、実際に購入経験のある人の意見や、関連する詳細情報などを集めて検討し、納得のいく商品を買う(Action)。
商品の到着を待って、それなりに使い倒し、感想をWeb上に書き込む(Share)。


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あと“ICSAS”について、「すでに似たようなのあるから!」みたいなご指摘もいただければ幸いです。